#011 論文『偽造メディカル機器への注意』について
みなさん、こんにちは。
ちょっと過激な表題ですみません。
長文になりますが、重要事項ですので、ぜひ一度目を通していただきたいです。
美容先進国のアメリカで最近、『医師への警告:偽造メディカル機器への注意』と題する論文が発表されました(Lasers in surgery and medicine 46, no.7(2014);528-530)。アメリカFDAで認可されている『ウルセラ』と『ゼルティック(脂肪冷却装置)』の『偽造品』における数々の問題点を指摘し、医療機器としてはきわめて異例の警告文となっています。
現在、ウルセラには5つ、ゼルティックには29の『偽造品』が確認されているそうです。アメリカでは、すべての『偽造品』はFDA(アメリカ食品医薬品局 Food and Drug Administration)による規定に準じておらず、これらの販売は違法行為に相当するようです。日本ではすべての『偽造品』はもちろん、『ウルセラ』や『ゼルティック』についても厚生労働省の認可を受けていないため、これらの『偽造品』が無法地帯で堂々と出回っていけるわけです。
以下に要約を抜粋しておきます。
【論文の要約】
① 美容医療機器の分野において深刻な偽造問題が起きている。『偽造品』は、合法的に承認された機器の特許権を侵害し、FDAから承認を得ているという虚偽の申告を行い、FDA承認品のブランドを侵害している。また、FDA承認済み製品の症例写真が、模造品の宣伝に流用されている(実際に、某国製品の1つで行われている)。
② 『ゼルティック』や『ウルセラ』の技術はアメリカ及び海外の特許により厳重に保護されており、安全機構が内蔵されている。それに対して『偽造品』は、安全性、信頼性、再現性に欠ける。
③ これらのコピー品によって無数の患者の傷害例が報告されている。ゼルティックは100万回以上の治療実績があるが、このような外傷は報告されていない。
④ これらの『偽造品』は一見経済的な利点があるようにみえるが、安全性や効果が実証されていないこれらの機器を用いた治療により真の危険性及び賠償責任は重大である。
⑤ 医師は、『偽造医療機器』が出回っている実態について把握しておくべきであり、またこれら機器の使用は、厳しい経済的・民事的及び継時的制裁につながることを理解すべきである。
⑥ 医療機器購入の際には、製造者又は正規代理店から購入すること、それが正規品であること、またFDAによって承認されていることを確認すべきである。
多少、解説が必要ですね。
① → 虚偽の申告が本当なら(事実なんでしょうけど)、大変なことですね。
② → ウルセラには実験を繰り返すことで得られる膨大なデータがあります。『偽造品』はウルセラを分解して技術を盗用しており、信頼できるデータがほとんど持っていないのが普通です。
③ → ウルセラについても、熱傷(やけど)の報告はあります(当院でも1例ありました)。ただ、模倣品での報告は異常に多いのようです。
④⑤ → ウルセラも厚生労働省の認可を受けていませんので傷害による賠償や制裁を免れるわけではありません。
⑥ → どの医療機器を導入するかは医院の判断に委ねられますが、誤った情報を流布することは許されません。日本ではFDAの規制対象外ですが、医師側のモラルが問われますよね。
この論文はアメリカ発ですので、日本でそのまま適応されるわけではありません。
繰り返しになりますが、『ウルセラ』も『偽造品』も認可されているわけではありませんので、日本においてはそもそも『正規品』や『模倣品』という概念自体が存在しないのが現状です。アメリカでは違法でも、日本では違法ではありません。
ただ、この問題が看過できないのは、「後発品」や「模倣品」というならまだしも、『偽造品』と表現していることにあります。『偽造品』が『正規品』の特許を侵害していること、安全性や効果が実証されていないにもかかわらずその効果を謳っていることが大きな理由です。傷害を起こした症例数の差をみても、どれだけ重大な問題をはらんでいるかを読み取っていただけるはずです。
正直なところ、私はこれらの模造品を見たことも使ったこともありませんので、どちらが効果的かを論じることもできません。確かに『偽造品』にも一定の効果を得られるものもあるでしょうから、『偽造品』=『粗悪品』とは一概に決めつけるのは危険です。しかし、これらの模造品が『ゼルティック』や『ウルセラ』における特許を侵害することによって製造、販売、使用されているのであれば、許されることではありませんね。
みなさんは、この警告文をどのようにお感じになられるでしょうか?
傷害なんて起こるはずないし安くて何回も受けられるなら模倣品でいいんじゃないの、と、やはりお思いでしょうか?
どうせウルセラを売り込みたいだけじゃないの、とお思いでしょうか?
模倣品はウルセラを標的に作られた機器です。では、医師から『ウルセラ』との違いについてきちんと説明されましたでしょうか?
機器を選択されるのはお客さまご自身です。安い施術を受けたいと思うのは当然です。あえて高いお金を払って『ウルセラ』を受けなさい、とは私の口から申し上げることはありません。
ただ、この警告文が、みなさんの賢明な判断の一助となることを切に願っております。
以上、長文にて失礼いたしました